集合住宅オーナーが太陽光発電を始めるべき理由

太陽光発電の設備は、戸建て住宅だけではなく、マンションなどの集合住宅へ設置するケースも増えてきています。マンションオーナーが屋根へ太陽光発電を設置することには、資産価値、収支状況の双方に良い影響が見込めます。ここでは、具体的にどのような利益があるのかについて解説します。

太陽光発電において集合住宅への導入が進んだのはいつから? 

集合住宅太陽光発電

集合住宅への太陽光発電の導入が本格的に進んだのは、2010年秋からです。その背景として、アパートの各住戸向けのパワーコンディショナーが市場に登場したことが挙げられます。

また、2012年にFIT制度が開始されたことで、太陽光発電設備で発電した電気を電力会社に売電できるようになりました。売電による利益が得られることで、マンションオーナーにも設置するメリットが高まったため、普及が進んだのです。

太陽光発電の金銭的メリット4種のパターン

太陽光発電で発電した電気には、2つの選択肢があります。全てを自家消費するか、固定価格買取制度(FIT制度)を使い、電力会社に電力の一部あるいは全てを売ることです。

集合住宅に設置した太陽光発電は、電気の使い方によってさらにパターンが分かれます。金銭的なメリットを受け取る人や、付加価値に違いが出てくるのです。

この段落では、パターン別に、太陽光発電を設置するメリットを紹介していきます。

発電した電気を全て売るパターン

10kW以上50kW未満の太陽光発電の場合、余剰売電でのみFITが使える

従来では、設置容量が10kW以上の太陽光発電を設置した場合、FIT制度により発電した全ての電気を電力会社に売ることが可能でした。マンションオーナーも、発電した電気を全て電力会社に売ることができました。

しかし、2020年度からは、10kW以上50kW未満の太陽光発電の場合、余剰売電でのみFITが使えると変更されたのです。

「地域活用要件」を満たし、自家消費率は30%以上でなければいけないという条件も付けられました。地域活用要件には、災害時に電源として活用できることや、余剰売電であることという条件があります。

発電した全ての電気を売る、投資に特化した「全量売電」を行うには、50kW以上の設備でなければなりません。

発電した電気を集合住宅の共用部で使う

発電した電気

発電した電気を、集合住宅の共用部(エレベーターや廊下の照明、会議室のエアコンなど)で使うやり方もあります。つまり、共用部で必要となる電気を太陽光発電で賄うという考え方です。

このパターンでは共用部の電気代を節約できるため、管理費・共益費といった入居者の負担を減らせます。その分割安な値段で貸し出せるため、賃貸物件としての魅力が高まると考えられます。

さらに余剰売電を選べば、使い余した電気を電力会社に売電することも可能です。この場合の売電収入はオーナーの収益となります。

発電した電気を集合住宅のオーナー宅で使う

所有物件にオーナーも住んでいるケースでは、発電した電気をオーナー宅だけで使うという選択肢も出てきます。発電した電気については全てを自家消費してもよいが、余剰売電(余った電気を電力会社に売電する)も選べます。余剰売電を選べば、オーナーは自宅の電気代を節約した上に売電収入も得られます。

発電した電気を集合住宅の入居者に使ってもらう

発電した電気をオーナーだけが使うのではなく、各入居者に振り分けて使うという選択肢もあります。余った電気は各世帯がそれぞれ電力会社に売電し、収益は各入居者のものになります。

この方法のメリットは、入居者の電気代の負担が減らせるうえに、売電収入も得られることです。オーナー自身が太陽光発電によって金銭的な利益を得られるわけではありませんが、太陽光発電が設置されていない他の集合住宅との差別化ができるという強みがあります。

結果的に物件としての魅力が増し、賃料収入アップなどの形でオーナーの収益につながる可能性があります。

集合住宅に太陽光発電を設置するメリット

集合住宅に太陽光発電を設置する

ここまで、太陽光発電の利用パターン別にメリットがあることを紹介してきた。集合住宅に太陽光発電を設置するメリットについて、具体的に説明していきます。

家賃以外の安定収入が得られる

太陽光発電収入

オーナー側にとっては、家賃以外の安定収入が得られるというメリットがあります。

固定価格買取制度(FIT制度)は、個人または企業が設置した太陽光発電で発電した電気を、電力会社に売ることができる制度です。同じ価格での買取が保証されている期間は、FIT制度を適用して太陽光発電を開始した年から20年間となっています。

売電価格の保持が約束されることで、長期にわたり安定収入が得られるということです。

家賃以外にも売電収入を得られることで、空室リスクなど家賃収入の変動に対抗できます。集合住宅の建設費や太陽光発電の設備費といった、初期投資の回収予測なども立てやすくなるでしょう。

入居者からの評判が良くなる

入居者からの評判が良くなる

マンションに太陽光発電を設置すれば「非常用電源」としても活用できます。たとえば、入居者の専有部に電気を供給すれば、停電してもテレビなどさまざまな家電製品の使用が可能になるのです。

また、共有部に太陽光発電の電気を供給すれば、管理費・共益費といった入居者の負担が軽減されるメリットも得られます。その結果、入居者からの評判が良くなり、長期的な入居にもつながる可能性が高いです。

反対に災害時の対策を何もしていない場合には、入居者が不安感を持ちやすいので退去してしまう可能性もあるでしょう。収入源である家賃収入が減ってしまう恐れもあるので、太陽光発電により得られる災害対策は大切です。

屋根を有効活用できる

屋根に太陽光パネルを設置

集合住宅の屋根はデッドスペースになりがちです。安全上の理由で開放できなくても、太陽光パネルを設置すれば広いスペースを有効活用できます。面積が広く日当たりが良い屋上は太陽光発電の設置に適しており、良い条件が揃った希少な場所でもあります。

それに加えて、太陽光パネルを設置すると屋根に日影ができ、最上階にある住居の断熱性がアップします。室温上昇を抑えると空調にかかるコストが減り、住みやすいポイントの一つとなるでしょう。

太陽光発電の「付加価値」で入居者にアピール

アピール

太陽光発電の設置は、集合住宅に「省エネ・創エネ」といった付加価値を与えてくれます。

太陽光発電つきの住宅は、電気代が節約できる・停電時でも電気が使える期待感など、入居者にとって魅力的に感じる面も多いです。したがって、太陽光発電を設置することは、そうでない集合住宅との差別化につながります。物件としての競争力が増し、入居率アップにもつながると考えられるのです。

なぜ太陽光発電を設置すると付加価値がつくのか?

ZEHの太陽光発電を設置する

集合住宅の入居希望者の「省エネ・創エネ設備」への関心は高いです。環境負荷の低減に協力できるだけでなく、省エネ住宅イコール少ない光熱費で快適に暮らせる、ということでもあるからです。

経済産業省の資源エネルギー庁では、「快適な室内環境」と「年間で消費する住宅のエネルギー量が正味で概ねゼロ以下」を同時に実現する住宅をZEH(ゼッチ)と定めています。

断熱性が高く、自然の光を取り込み利用します。ZEHは省エネ・創エネによる環境負荷の低減、および快適な住環境を同時に叶える住宅です。地球に優しいだけでなく、住む人にとっても優しい住宅なのです。

国としては、官民連携でZEHの普及を推進していく方針です。一定の基準を満たし、集合ZEHと認定された物件であることを強くアピールすることができます。光熱費の削減効果など、多様な利益を強みにすることが推奨されつつあるのです。

太陽光発電の設置もZEHの施策としてカウントされます。ZEH認定を目指すことは、物件のブランド力を高めることにつながるといえよう。

集合住宅に太陽光発電を設置するデメリット

集合住宅に太陽光発電を設置することには、メリットばかりではなくデメリットもあります。これから設置を検討するのであれば、デメリットについてもよく理解しておきましょう。

初期費用がさらに高額になる

太陽光発電初期費用

太陽光発電を設置するには、それなりの初期費用が必要です。毎月の売電収入でコツコツと投資費用を回収し、メンテナンス費用を支払い、廃棄する費用を積み立てていく。元をとるまで長い時間がかかる設備投資になるのです。

マンション経営も同様に、初期費用が高く、毎月の家賃収入でコツコツと返済していくタイプの投資です。メンテナンスなどにかかる費用は太陽光よりも高額で、初期費用を回収するまでにことさらに時間がかかります。

実際に必要となる設置費用や将来にわたっての収支予想について、事前にしっかりと確認しておきたいところです。太陽光発電の販売業者などに見積もりを依頼すると、初期費用や売電量のシミュレーション、それらに基づく収支シミュレーションなどを算出してもらえるので参考にするとよいでしょう。

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全ての入居者へ電気を供給できない可能性がある

物件を差別化するために、入居者に太陽光発電で電気を供給したいと考えているオーナーもいるでしょう。その場合、実際に全戸に供給できるだけの電気を確保できるとは限らないという点も考えておくのがポイントです。

設置可能な面積に対して、太陽光パネルを設置できる枚数は限られているからです。

全ての住戸へ電気の供給をしたいと考えていても、現実問題として戸数が多い集合住宅の場合は供給量を確保できないこともあるでしょう。こうしたケースでは、共用部のみに太陽光発電の電気を使用するなど、集合住宅の魅力の訴求ポイントを変更する必要があります。

追加の工事費用が発生するケースもある

太陽光発電を設置工事

マンションに太陽光発電を設置する場合、建物の形状はそれぞれ異なり、必要な配線方法も1つではありません。このような特徴から、当初に見積りしたよりも追加での工事費用がプラスされる可能性もあるので注意が必要です。

たとえば、すべての部屋に太陽光発電システムをつなげる場合は、工事費用が高くなる可能性が高いです。このような可能性も踏まえて、前もって工事資金を多めに用意しておくと安心できるでしょう。

入居者がいる既存の集合住宅への後付けは難しい

悩み

既存の集合住宅では、新たに太陽光発電を導入するのは難しいという事情もあります。

すでに入居者がいる集合住宅へ太陽光発電を後づけする場合、入居者全員の同意が必要となります。設置によって得られる入居者のメリット(管理費が〇円安くなる、電気代が〇%節約できるなど)を具体的に提示し、全員に了承してもらわなければなりません。これは、大変な労力がかかります。

それでも、太陽光発電設備の設置工事については、工事期間中の騒音や車両の出入りなど、入居者が不便を感じることも少なくありません。現実的に、全員を説得するのは非常に難しいといえるでしょう。

ひとつの方法として、大規模な修繕を行うタイミングでの取り付けなら、住民の了解が得られやすいかもしれません。

住人から太陽光発電を設置したいと相談を受けたら?

相談

マンションオーナーは、入居者から太陽光発電を設置したいと相談を受ける可能性もあります。

たとえば、借りている部屋のベランダに太陽光パネルを設置したいといわれる場合もあるでしょう。しかし、ベランダは入居者が所有する「専有部」ではなく「共有部」とされているため、マンション管理組合の設置許可が必要になります。

実際には、安全性や景観の問題など、さまざまな問題があるので設置は容易ではありません。

現在発売されている太陽光パネルは、戸建て住宅の屋根に設置することを前提として設計されているため、ベランダではうまく設置できません。

設置許可を取ったとしても、設置すること自体も難しいのです。以上のことから総合的に考えると、マンションオーナーが入居者に太陽光発電設備を設置してもよいと安易に許可を与えるのは避けるべきといえるでしょう。

太陽光発電において自家消費型に注目が集まっている理由

固定価格買取制度の変更などの影響から、太陽光発電は「自家消費型」に注目が集まっているのが現状です。集合住宅においても、今後は自家消費にシフトしていくと予想されています。この段落では、その理由について解説していきます。

固定価格買取制度の買取価格が下落している

固定価格買取制度の買取価格が下落

固定価格買取制度の買取価格は年々下落しています。2019年度には産業用太陽光発電の買取価格は14円でしたが、2023年度のは10kW以上50kW未満は10円/kWh、50kW以上250kW未満は9.5円になりました。

「10kW以上50kW未満」については、
余剰売電に限定されるなど制度内容に細かい変更がある点にも注意しましょう。

買取価格の下落や制度の大幅な変更により、以前よりも固定価格買取制度の人気はなくなってきています。それに伴い、メリットの多い自家消費に注目が集まりつつあるのです。

電気代の値上がりに備えられる

電気代の値上がりに備えられる

2011年に東日本大震災が発生してからは、電気料金の値上げが続いています。2015年からの電力の自由化に伴い、2015年〜2016年には電気料金が少し下がって落ち着いた。

しかし、国内の電気料金は2021年から毎月連続で値上がりしており、
昨年の同時期と比較すると1.4倍~1.5倍に請求金額が増えています。

固定価格買取制度の買取価格は年々下がり続けているため、値上がりを続ける電気料金の推移を比較すると、その差はなくなってきています。むしろ、今後は電気料金のほうが高くなると予想されているのです。

太陽光発電設備を導入して自家消費を目指すことは、今後の電気代値上げへの対策にもなるでしょう。

節税につなげられる

節税

個人事業主や中小企業が太陽光発電設備を導入すると、「中小企業等経営強化税制」が適用されて節税につながるというメリットが得られます。具体的には、設置費用の即時償却または7%~10%の税額控除のどちらかを選択するものです。

ただし、全量売電している場合は対象外となる点に注意が必要です。税制優遇を受けられるのは、「自家消費目的の太陽光発電」のみとされています。

太陽光発電システムにより発電した電気は、すべて自家消費するか、売電して余った分を自家消費しなければなりません。なお、余った分を自家消費する場合は、個別に確認が必要とされています。

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蓄電池と組み合わせることも可能

太陽光発電と蓄電池の組み合わせ

太陽光発電設備は、蓄電池と組み合わせて自家消費をするケースも増えてきています。

太陽光エネルギーにより作られた電気は、普段の生活で使っても余ってしまった場合は電力が無駄になってしまいます。その点、蓄電池と組み合わせると、余剰電力を貯めておけるので無駄になりません。

蓄電池に貯めておいた余剰電力は、悪天候などで発電がうまくできないときに使えます。そのため、値上がりを続ける電力会社からの買電量が減るので電気代の節約になるのです。

さらに、蓄電池と組み合わせると、万一の災害時に起こる可能性のある停電にも備えられることも大きなメリットといえます。太陽光発電設備だけの導入よりも、電気を貯めておける点で安心感が格段にアップするでしょう。

太陽光発電は相見積もりが必須

太陽光発電の相見積もりタイナビNEXT

集合住宅に太陽光発電を設置することには、建物に付加価値がつく、売電収入による金銭的な利益が得られる、といったメリットがあります。しかし、実際には全ての集合住宅で期待していたような結果が得られるとは限りません。屋根が太陽光発電の設置に適しておらず、採算が取れない可能性もあるのも事実です。

集合住宅で太陽光発電を設置する場合、採算を取るためには屋根の形状や広さ、その他の条件を詳しく検討する必要があります。そのためにも、住宅の専門家ではなく、太陽光発電の専門家に現地調査をしてもらうことが必須です。

初期費用を抑えるという意味でも、タイナビNEXTの一括見積を利用し、必ず複数社の相見積もりを取って検討することをおすすめします。