X線の観測からブラックホールなどの宇宙の神秘を解明していく研究を進めるために、2016年2月に打ち上げられたX線天文衛星「ひとみ」。

ところが、トラブルで通信機能がストップ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、「ひとみ」に電源として搭載していた太陽電池パネルが分解された可能性が高く、回復させるのは厳しいと判断し、その運用をストップすることを発表しました。

X線天文衛星「ひとみ」に起こったトラブル

X線天文衛星「ひとみ」は、2016年2月17日に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。ところが、3月26日午後に突如、音信不通状態に。

調べたところ、機体が複数に分解・回転していることが判明。衛星の姿勢制御プログラムが不完全だったことで機体が回転し、それを立て直そうと自動で噴射するものの、その前に送っていた信号の設定が間違っていた事で回転速度が加速。

構造的に弱い太陽電池パネルに遠心力がかかり、それに耐えきれずにパネルが取り付けられていた両翼が根元から壊れてしまったようです。通信が途絶えて2日ほどは衛星からの短い電波を確認できたのですが、それも別の衛星だったことが判明。

パネルが太陽の方向に向けば復旧できるかもしれない、といった望みを持っていたのですが、電力を確保できなければ観測はもとより地上と通信もできません。そうしたことから、運用は断念されました。

太陽電池で効率的に発電する為の取り付け場所

長い時間を旅する人工衛星は、電池を取り替えたりコンセントを使って充電することはできません。必要な電気は、太陽電池で発電して取り込み飛んでいます。

衛星に直接つけるのではなく、鳥の羽のように広げた部分やラケットのように広げている部分に取り付けています。こうした形をとるのは自分で姿勢バランスを整えやすくする為で、常に太陽電池パネルを太陽の方向に向けて良好な姿勢をコントロールしているのです。

ただ、姿勢によっては人工衛星の本体部分が影になってしまう事もあります。この場合はラケットのような部分に張り付けられた太陽電池が活躍します。X線人工衛星「ひとみ」も、羽のような部分に太陽電池が取り付けられていました。

JAXAによる記者会見

X線天文衛星「ひとみ」の運用ストップについては、4月28日にJAXAの常田佐久・宇宙科学研究所長による会見が東京都内でおこなわれました。会見では、人が作業した部分のミスを見つけられなかったことを謝罪しています。

一連のトラブルは、「ひとみ」にインプットしたプログラムミスと、地上から送ったデータが間違っていたことなどが重なって起きたと説明されました。X線を観測することで宇宙の歴史や不思議を探るX線天文学は、日本では得意分野です。

「ひとみ」はアメリカと共同開発した6代目の衛星で、打ち上げ費用も含めると約310億円を負担しています。

日本の人工衛星におけるトラブル例

これまで打ち上げられたJAXAの衛星や探査機におけるトラブルで運用ストップしたのは、近いものでは2013年12月に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」があります。

「のぞみ」ではエンジンの噴射に失敗してしまい、火星の軌道に入ることができなかったです。他にも、小惑星探査機「はやぶさ」や金星探査機「あかつき」などでトラブルが起きており、JAXAの開発体制に問題点はないかどうかが問われています。

今回の「ひとみ」におけるトラブルについても、直接的な原因究明だけでなく、設計や製造段階、衛星本体、プログラムのチェック体制、運用体制などにも厳しい検証をおこなう考えがあるようです。

今後の観測計画にも大きく影響

アメリカ航空宇宙局(NASA)の協力もあった「ひとみ」は、最先端技術を備えた天文衛星でした。X線を使う高度な観測方法で、ブラックホールなどの宇宙の謎に迫れると大きく期待されていただけに、今回のトラブルは非常に残念な結果。

日本だけでなく世界の観測計画にも影響がでる事が懸念されています。