太陽光だけで飛行するソーラー・インパルス

燃料も必要とせず、太陽光からのエネルギーだけで飛ぶ飛行機。夢の様な話しですが、既に2016年現在では実現しています。

スイスで開発されたソーラー・インパルスです。このソーラー・インパルスの開発者は2人。精神科医と冒険家と言う珍しい肩書きを持つスイス人ベルトラン・ピカール氏。1999年には熱気球で無着陸世界一周飛行を世界初で成功させました。

もう一人はスイス空軍パイロットでエンジニアでもあるアンドレ・ボルシュベルグ氏です。この2人は「無補給・無着陸による彼らは最終目標に「無補給・無着陸による世界一周」を掲げ、2003年から「太陽光だけで飛ぶ飛行機」プロジェクトに取り組み始めました。

2009年にプロトタイプ機「HB -SIB.による最初のテスト飛行が成功、翌年にはスイス西部のフリブール地方にて、「24時間連続飛行に挑戦、これを成功させました。

更に2012年6月、スペインのマドリードを離陸したソーラー飛行機は19時間かけてジブラルタル海峡を越え、モロッコのラバト・サレ国際空港に無事到着しました。
ソーラー飛行機史上初となる、ヨーロッパ・アフリカ大陸間飛行830・を達成したのです。

それ以降も毎年試験飛行は繰り返され、「ソーラー・インパルス」は着実に世界一周へと近づきつつあります。このプロジェクトには開始から10年間で総額90億円近くの投資されましたが、すべて民間企業の基金でまかなっているのも驚きです。

世界一周を目指す「ソーラー・インパルス」の構造

「ソーラー・インパルス」は、機体のほぼ90%が軽く丈夫なカーボンファイバーでできています。

機体の総重量は2.3トンで自動車1台程度。それに比べると非常に大きく不釣り合いな72mもの主翼を持ち、その上に太陽エネルギーを吸収するための12000個の薄型ソーラーパネルが設置されています。

ソーラーパネルから4つのモーターに供給される1日あたり340kWhの電気でプロペラを回し飛行します。

前日までに充電した電力で離陸し、日中は充電を続けながら滑空状態で巡航飛行、日が落ちる夕方になるとそれ以降はある一定の高度まで緩やかに高度を落としながら日中蓄えた電力でプロペラを回して最低限の高度を保ちます。

順調ではない世界一周の実現

世の中のほとんどの夢そうであるように、クリーンエネルギーの夢も簡単には実現しないようです。

2015年3月8日に世界一周飛行を目指しアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビを離陸、オマーンのマスカット、インドのアーメダバードとバラナシ、ミャンマーのマンダレー、中国の重慶と南京と離着陸を繰り返しながら飛行し、南京までは順調にたどり着くことができた「ソーラー・インパルス」でしたが、ハワイへ向かう途中、ボルシュベルク氏いわく「進路上に雲の壁が立ちはだかった」為名古屋に緊急着陸を余儀なくされました。

その後5日間と最も長い連続飛行を経て7月3日にはハワイに到着したものの、その飛行中に蓄電池が設計を超える熱によって損傷、応急措置では対処できない事態が発生してしまいました。

このためプロジェクトは一時中断、今年早春までは同機をハワイに留める予定との発表がなされました。

プロジェクトチームよると、蓄電池損傷の原因は蓄電池の固定方法が強度・防水性・防塵性を優先するあまり冷却システムの性能に問題があったこと、また飛行ルートの詳細な分析が不足していた事による想定外の気温上昇が原因だったそうです。

しかしながらこれらの課題を乗り越え、ソーラー・インパルスは今後、アメリカ合衆国本土を横断、さらに大西洋から地中海付近を経由して出発地アブダビへと帰還する計画です。完全にクリーンなエネルギーは人類の夢です。

「ソーラー・インパルス」はその夢への大きな、そして着実な一歩となるでしょう。