HIT太陽電池

HIT(Heterojunction with Intrinsic Thin-layer)太陽電池は、ヘテロ接合型太陽光電池の事。特性の異なる材料同士を接合したシリコン系太陽光電池です。

その仕様は、n型単結晶シリコン半導体の両面に、i型アモルファスシリコン半導体とp型アモルファスシリコン半導体、反射防止膜、電極の順に重ねています。

HIT太陽電池は三洋電池が開発した太陽電池なのですが、吸収合併したことによってパナソニックがその製造を受け継いでいます。

HIT太陽電池の仕組み

HIT太陽電池とよく比べられる結晶シリコン型太陽電池は、多結晶シリコンや単結晶シリコンなどで作られており、p型とn型のシリコンを張り合わせて電流が流れるようになっています。

HIT太陽電池は、n型単結晶シリコン半導体の両面にi型とp型の2つの種類のアモルファスシリコンでサンドイッチ。これを、ヘテロ接合と呼んでます。

優れた変換効率の高さ

HIT太陽電池におけるヘテロ接合では、半導体同士の接合面における欠陥の発生リスクを少なくするための、変換効率を向上させることが可能。

これは結晶系シリコン太陽電池のような、同一の結晶構造における半導体同士の接合におけるリスクの高さに比べると優れています。一般的な多結晶シリコン型の変換効率は14%程度ですが、HIT太陽電池では19%程度とその差は大きいものになっています。

この数値の違いは、単結晶シリコンウエハにアモルファス・シリコン層をサンドしているから。アモルファス層を追加することで接合面の特性を向上させ、セル表面における発電ロスを抑えているのです。

高温時にも出力低下することが少ない

HIT太陽電池では薄膜化されたアモルファスシリコン層を使うので、シリコンの使用量やシリコンインゴットを作るのに必要となる熱エネルギーも結晶系シリコン太陽電池と比べて少ないです。つまり、製造時に必要となるエネルギー量が少なくて済むのです。

また、高温時に出力が下がってしまう現象も、結晶系シリコン太陽電池より少なくすみます。アモルファスシリコンは熱に強いので、高温下でも発電量が低下しにくく安定しているのです。夏の暑い日には、80度近くまで上がってしまう事があります。

より高温になる方がエネルギーも多く得られると思いがちですが、実は逆で、結晶型シリコン太陽電池モジュールでは変換効率が落ちて、発電量が減ってしまいやすいのです。

HIT太陽電池では結晶型と薄膜型シリコン太陽電池の両方の特性をもっているので、高温にも出力を下げることなく耐えられる設計。特に年間を通じて気温が高い地域には合っていると言えるでしょう。

薄型化が可能で両面発電もできる

低反射ガラスを使用しているので太陽光の反射率も低く、光を逃がさずより多く取り込むことができますから、日射量が少ない早朝や夕方でも発電可能。

モジュールの裏側に当たった光を取り込んで発電することもできますので、裏面にあたる日射で発電させるといったメリットもあります。また、一般的な結晶型シリコン太陽電池と比べても薄型構造にしやすいといったメリットがあります。

一般的な結晶型シリコン太陽電池では、高温での熱拡散処理が必要となるので、そう簡単にウエハを薄くすることはできません。下手に薄くすると材料の熱への対応力の違いから、セルが反り返ってしまうといった危険性があるのです。

HIT太陽電池では両面に同じ構造を作っているので、たとえウエハを薄くしてもセルが反り返ることはないのです。

HIT太陽電池の製造は複雑でコストがかかる

HIT太陽電池は優れた特性を持つ太陽電池ですが、製造工程が複雑というデメリットがあります。

単結晶シリコンの基板の両面に2種類のアモルファスシリコン半導体を形成しなくてはいけないので、複雑なだけでなく製造コストも高くなってしまうのです。

変換効率と価格だけで考えると、コストパフォーマンスはそこまで秀でているとはいえませんが、単位面積あたりの発電量は優れているので、たくさんの発電量を希望する人には向いています。

HIT太陽電池へとつながる太陽電池の進化

太陽電池の開発・商品化はめざましく、HIT太陽電池もその一つ。一般家庭向けとしてはシリコン製の太陽電池が主流となっているものの、より低コストで長い寿命をもつ非シリコン系太陽電池などの開発も進んでいます。

最も古くから使われているのが結晶シリコン系太陽電池で、シリコンを加工してインゴットにし、それをスライスしたウエハを半導体基板として使っています。結晶型はシリコン原子が規則正しく並んでいるので、その力を発揮しやすいといわれています。

単結晶シリコン型太陽電池と多結晶シリコン太陽電池とあり、前者は高純度のインゴットから作られ、変換効率が20%前後と高いですが、シリコンの使用量が多いので高額になりやすい太陽電池ですが、後者は需要が多い太陽電池で、直径数mm程度の小さな単結晶を集めて作るため表面が大理石のような模様になっています。

シリコン使用量が少ないので価格が安く大量生産が可能ですが、変換効率は15%程度と単結晶よりは劣ります。

超極薄のシリコンからなる薄膜シリコン太陽電池

数μm(1000分の1ミリメートル)以下の薄いシリコン膜を使った太陽電池を、薄膜シリコン太陽電池と呼んでいます。結晶型の100分の1程度ですみ、低コスト、軽量でフレキシブルなモジュールを使う事が可能です。

アモルファスシリコン太陽電池と微結晶シリコン太陽電池、多接合型太陽電池とあります。
アモルファスシリコン太陽電池の「アモルファス」には「非結晶」という意味があり、ランダムに結合していることからも、非結晶シリコン系太陽電池とも呼ばれます。

薄い膜でも光を吸収したり、光が弱い環境でも高い効率を持っているので、電卓などに利用されています。微結晶シリコン太陽電池は可視から近赤外域の光を利用する太陽電池で、微細なシリコン結晶をアモルファスシリコン層に囲んで使います。

そして多接合型太陽電池は、いくつかの光の波長帯が異なる太陽電池を組みあわせる事で発電効率を高めることができます。

複数の化合物を半導体材料とする化合物系太陽電池

シリコンを使わないで、複数の化合物からなる太陽電池。変換効率が高く影などの影響が受けにくいといわれており、結晶シリコン系太陽電池より高い発電量を期待することができます。

また、組みあわせる素材次第で、用途に合わせた性能やコストを下げたりすることが可能。主流となっているのはCIS太陽電池やCIGS太陽電池で、CaTe(カドミウムテルル)太陽電池とGaAs(ヒ化ガリウム)太陽電池は有害物質を使用している事からあまりみることはありません。

低コストで作れる有機系太陽電池

常温・常圧で有機半導体材料を塗布し製造することが可能で低コスト。プラスチックや金属などの薄い基板の利用で、軽量・柔軟性ある製品を作る事も可能な太陽電池で、色素増感太陽電池と有機薄膜太陽電池とあります。

色素増感太陽電池は光を吸収して電子を放出する太陽電池で、自由度が高く壁面や曇りの日でもその性能を発揮します。有機薄膜太陽電池は、導電性ポリマーやフラーレンなどの有機半導体からなるもので、室内インテリアやおもちゃなどに使われています。

研究が進む革新型太陽電池

革新型太陽電池とは、量子ドット太陽電池や球状シリコン太陽電池、カーボン太陽電池など。量子ドット太陽電池は10nm(10億分の1メートル)程度の微小な半導体の粒子を発電層に応用した太陽電池で、球状シリコン太陽電池は直径1mmの球形をした結晶系シリコン太陽電池。

カーボン太陽電池は炭素を材料としています。
年々、研究・開発が進む太陽電池、さまざまな種類に太陽電池が作られている中、HIT太陽電池はそのメリットから注目度も高いものとなっています。

人気があるから、主流だからといった理由ではなく、太陽電池それぞれの違いや特徴を把握して、選ぶようにすると間違いはありません。